2008年05月27日

私は詩を書く


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  私は詩を書く

 

心の奥底
その下のもっと下
体の奥底に流れている
渦まいている
黒い静かな流れに乗せて
私は詩を語る

古い夢が干からび
新しい夢が変形していく体の奥底では
昨日見た夢もサングラスをかけて
怯えながら審判を待つ
三途の川の渡し守のカロンは
六文銭を投げ出して
薔薇の香を大量に焚き
夢たちの不安を一つ一つ叩き割っている

川が流れ出す
白い波が立つ
白い肌をした若い女の夢が
激流に吸い込まれていく
泡の中に沈んでいくヴィーナス
美は生まれたのか 葬られたのか

地獄の渡し守のカロンは凱歌を挙げ
夢のかけらたちを積んで船出する
行く先は地獄ではないらしい
地獄ですらない忘却の淵

夢たち 詩たち
天上の歌をうたう少年たち
幼き友情の絆をうたう歓びの声
高き空で叫ぶ夢
体のあちこちに流れる薔薇のインセンス
私の心の上澄みの
空気よりうすい部分にひびきわたる

いくつもの私がいて
いくつもの夢がある
いくつもの私がいて
いくつもの詩がある
こんなふうに私は
生まれたての詩を書き留めている
立ち止まることはない
振り返ることはない
私は詩を書く
詩を書く間 私は生きているから
ペン先から生まれる言葉
それは全て喜び
悲しいと書いても淋しいと書いても
それはほとばしる喜び
私の心を流れる清冽な水しぶき

右腕が左腕の知らない誰かを知っている
左腕は右腕の知らないため息を知っている
右腕と左腕は仲がわるい
肋骨はいつも胸をいためている

淡い光が射してきた
曇りのち晴れ
今日見た夢は明日はもう思い出
いつまでもどこまでも
私の見る夢が続く

              (20.5.27.)

 

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2008年05月26日

夜汽車


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萩原朔太郎『純情小曲集』より

 

 夜汽車

有明のうすらあかりは
硝子戸に指のあとつめたく
ほの白みゆく山の端は
みづがねのごとくにしめやかなれども
まだ旅びとのねむりさめやらねば
つかれたる電燈のためいきばかりこちたしや。
あまたるきにすのにほひも
そこはかとなきはまきたばこの烟さへ
夜汽車にてあれたる舌には侘しきを
いかばかり人妻は身にひきつめて嘆くらむ。
まだ山科は過ぎずや
空氣まくらの口金をゆるめて
そつと息をぬいてみる女ごころ
ふと二人かなしさに身をすりよせ
しののめちかき汽車の窓より外をながむれば
ところもしらぬ山里に
さも白く咲きてゐたるをだまきの花。

『月に吠える』『青猫』ほど鮮烈ではありませんが、抑えられたポエジーが横溢している佳作です。「みづがね」とは水銀。水銀を流したような静けさ、ということでしょうか。山の端を水銀にたとえることはなかなか出来ないと思います。夜汽車にて荒れたる舌には侘しき、という句にも心を動かされます。

posted by kous37 at 22:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

その手は菓子である


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萩原朔太郎の詩集『青猫』より、「その手は菓子である」を朗読します。

 

 その手は菓子である

そのじつにかはゆらしい むつくりとした工合はどうだ
そのまるまるとして菓子のやうにふくらんだ工合はどうだ
指なんかはまことにほつそりとしてしながよく
まるでちひさな青い魚類のやうで
やさしくそよそよとうごいてゐる樣子はたまらない
ああ その手の上に接吻がしたい
そつくりと口にあてて喰べてしまひたい
なんといふすつきりとした指先のまるみだらう
指と指との谷間に咲く このふしぎなる花の風情はどうだ
その匂ひは麝香のやうで 薄く汗ばんだ桃の花のやうにみえる。
かくばかりも麗はしくみがきあげた女性の指
すつぽりとしたまつ白のほそながい指
ぴあのの鍵盤をたたく指
針をもて絹をぬふ仕事の指
愛をもとめる肩によりそひながら
わけても感じやすい皮膚のうへに
かるく爪先をふれ
かるく爪でひつかき
かるくしつかりと押へつけるやうにする指のはたらき
そのぶるぶるとみぶるひをする愛のよろこび はげしく狡猾にくすぐる指
おすましで意地惡のひとさし指
卑怯で快活なこゆびのいたづら
親指の肥え太つたうつくしさと その暴虐なる野蠻性
ああ そのすべすべとみがきあげたいつぽんの指をおしいただき
すつぽりと口にふくんでしやぶつてゐたい いつまでたつてもしやぶつてゐたい
その手の甲はわつぷるのふくらみで
その手の指は氷砂糖のつめたい食慾
ああ この食慾
子供のやうに意地のきたない無恥の食慾。

 

官能的な詩です。官能的でありつつイヤらしくない感じで読めるかどうか、と考えました。

 

山田詠美『ベッドタイム・アイズ』に同じような愛撫の描写がありますが、私はあれを読んでいてもあまりいやらしいという感じがしない。しかし、この朔太郎の描写はいやらしい感じがやっぱりします。それは性欲というものに関し、男のそれは理解できるが女のそれは理解しにくい、ということがあるのかなあ、とも思います。

 

考え方によれば、ここはいやらしく読むべきかもしれないのですが、まあそれはいつでもできるので、とりあえずイヤらしくない感じで読んでみました。さてどちらがいいか。

posted by kous37 at 11:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2008年05月25日

救い


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  救い

愛と憎しみはよく似ている
どちらも人を傷つける
だから
あなたが私を愛しているのか
あなたが私を憎んでいるのか
私は時々分からなくなる
私があなたを憎んでいるのか
私があなたを愛しているのか
分からなくなるように。

あなたが私を針のように苛む時
私が感じるあなたの思いへの恍惚を
それが愛であるのか憎しみであるのか
誰も知ることはできない
私は私の閉じ込められている
自我という名の牢獄を抜け出して
どこか知らないところであなたと抱き合いたい
私の苦しみや
愛という名の牢獄を抜け出して。

あなたが私を滅ぼすとき
私は切なく感謝する。
だからせめて
私があなたを滅ぼしてあげる。
二人は存在から解き放たれ
どこにもない場所で抱(いだ)きあう
甘美な夢を見ながら消滅していく
後には何も残らない
何も残らないことが救いだ。
誰にも覚えられていない
忘れ去られることが救いだ。

私たちは生々流転して
生まれ代わり死に代わり
愛しあい憎みあい
産まれあい殺しあう
世界が消滅するように私たちも消滅する
消滅することが私たちの
救いなのだ。

           (20.5.24.)

posted by kous37 at 08:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2008年05月18日

センス・オブ・ワンダー


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   センス・オブ・ワンダー

不思議なことを思う気持ち
それはポエジーを求める私の気持ち
風にそよぐ小枝でさえずる小鳥の気持ち
遠くの空を求めて漂っていく白い雲の気持ち

崖の上で風が吹いている
街の中で木枯らしが眠っている
私の鰐皮が
ひとりでにあくびをはじめる

十字架のキリストは眠り込み
サンピエトロは笑っている
木の葉に刻み込まれた鰯雲の暗号
トルバドーレを私は知らない

自由!自由!自由!自由!
私の叫ぶ声、銅鑼の音
揺れる白い旗、青い靴
玩具の兵隊のような人間の兵隊

越境者は常に迫害されるもの
だから足元を見ずに渡っていく
おびただしい死体の群
死んだ男は処罰され
生きた男は後を向く

深い空 白い雲 茜色の鰯 夢を食う鳥
長々しい阿呆陀羅経の合唱
夢が話しているのが聞こえる
私の鰐皮

     2008.5.18.

 

posted by kous37 at 23:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2008年05月13日

ありがとうございます。

木馬館館長さん、Leiさん、コメントありがとうございました。

反応が遅れてごめんなさい。読みにきていただいてとても嬉しいです。

どうぞ今後ともよろしくお願いします。

コメント表示は承認制のため、時々ぽかんとしていて気がつかないことがあります。

気がついたら直ちに表示します。どうもご迷惑をおかけします。

posted by kous37 at 06:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2008年05月11日

言葉を失ったときに生まれる詩を書く


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 言葉を失ったときに生まれる詩を書く

 

言葉を失ったときに生まれる詩を書く
愛を失ったときに生まれる愛を歌う
光を失ったときに見える光に祈る
意識を失ったときに生まれる意識で思う

私が生まれたのは山奥の村
荒れた岩肌の小さな村
女たちは浅黒い顔をし
私は籠に背負われて山の畑に上る
五体投地をしながら前に進む巡礼者
土埃が彼らの上を舞う
私は不思議な物を見つめる気持ちで
丸い目をくりっと動かした
右手の人差し指を口の中に入れて

私の上には大きな空が広がる
空よりも大きなものはない
でもみんな空を見ない
空があるのを本当には知らないから

山奥の岩の大地は貧しい
山羊を飼い山羊の乳を飲み
山羊のチーズを作り
山羊乳の酒を造る

男たちは赤黒い顔をして
酒を飲み歌い騒ぐ
女たちは手拍子に合わせて
大地の女神の歌を歌う

私は籠から外に出て
天幕の外に這って行った
満天の星 大きな月
鏡のような冷たい月の中に
私は自分の心を映した
私の心の中には何もない
煌々と月が照っている
月や星の光を浴びて
月や星の光を呼吸して
私は立ち上がり天幕を出て行った
後には男たちの歌声と
女たちの手拍子が聞こえた

私は知っていたいつかこういう日が来ると
私は知っていた月と星が私を誘い出すと
森にしかいないはずの梟が
岩山の上で私を見ていた
禿鷹は大きく羽ばたいて
自分のねぐらに帰って行った

私は知恵の森に入る
夕暮れに飛ぶ梟が
私の後を飛んで来る
知恵の森の泉の中に
私は私を映し出しに行く

まる三年と六日の間
私は荒野を歩き続け
砂漠と草原を横切って
時には海まで渡ったのだった
梟は
いつも私の後から
何も言わずについてきたが
ときどきホウとか羽ばたきとか
聞こえたような気がしないでもない

知恵と勇気と美と真実と
私は言葉は知らないけれど
それが何であるかは知っていた
私が踏む大地の下で
大地の女神はいつも歌っていたし
私が仰ぐ太陽の彼方で
空の神はいつも手拍子をしていたから

故郷を遠く離れて私は大人になった
大人になった私は歩き続け
いくつもの町を通り過ぎ
いくつもの国を通り過ぎた
人はみな私に関心を持つことはなかったが
私は知っていた人は皆知恵の森のありかを見失っていると

私は世界の果てに来た
大きな海が広がっていた
旅はまだまだ続くのだった
一艘の小舟が漂ってきた
わたしは小舟に乗って大海に乗り出した
梟も何も言わずに波の上を飛んだ
私の旅はまだまだ続く
空はさまざまに表情を変え
海は私に新たなことを教えた
私の旅はまだまだ続く
梟は何も言わずについてくる


posted by kous37 at 15:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2008年05月05日

不安な夜に僕は生まれて


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   不安な夜に僕は生まれて

不安な夜に僕は生まれて
ラフマニノフのピアノに育まれて
ポーの詩を子守歌と聞き
スーティンの絵を呼吸した

僕の通学路にばら撒かれた中村屋のカレーパンを
ヘンゼルとグレーテルの小鳥たちが啄む
僕は木村屋のあんぱんを探して
ブランドショップの並ぶ裏通りの
ティファニーで夕食を食べた

僕は深呼吸して
僕の失くした<私>を探した
学校に忘れた物は愛
水溜まりに落とした物は恋
あの子に渡したまま返って来なかったものは夢
帰り道に自転車で踏みつぶしてしまったものは憧れ

大事な大事な白い鳥が
僕のポケットから羽ばたいていく
あれは僕の魂
僕は魂と一緒に夜を飛ぶ

魂の翼は大きくて
冷たい夜を僕は飛ぶ
地上に見えるスフィンクスは
もう三年の間新しい謎を考えている
僕は電卓に「melody」と入力し
遠くの空では天使たちがカンタータを歌っている

時間がどんどん逆に回って
僕たちは夕焼けの空を飛んだ
茜色の空に銀ヤンマが飛ぶ
僕の涙がポケットの中で
金色の真珠に変わったとき
夕暮れの空で誰かが確かに
微笑んでいたのだ

僕は精一杯大きく手を振って
人類に別れを告げた
明日から僕は昨日を生きる
昨日は今日より素晴らしい
明日のために生きるのは終わりだ
僕は美しい昨日に生きる

さわやかな青空
湧きあがる白い雲
僕はあまりののどかさに
しゃっくりしながら風邪を引いた

              2008.5.5.

 

posted by kous37 at 22:40| Comment(3) | TrackBack(0) | 日記